絵本がこの世の中になかった時代、子どもには昔話がありました。そしてそれは「口で語られ、耳で聞かれる文芸」とも言われ、本を手にするお金持ちだけでなく、すべての人が楽しむことができました。私が、昔話について深く知りたいと思ったのは、とある文章を読んでからです。そこには、遠野ではおじいちゃんが囲炉裏端で孫を膝にのせて毎日同じ昔話を語り、孫が「おじいちゃん、どうして同じお話ばかりするの?」というと、「その言葉を待っていたのだよ。」とその日で膝の上で語られるお話は終わるそうです。後から知ったのですが、この毎日くりかえすという行為と昔話の中にでてくる「くりかえし」の技法というのは、子どもはとても好きで安心感や世の中の理解への鍵をつかむそうです。だから、くり返しをもういいよと子どもがいうことは、子どもが一つ成長したということを遠野のお話は語っているのだと思います。

 

絵本の中で、くりかえしの技法が使われている有名なお話といえば、ノルウェーの昔話『三びきのやぎの がらがらどん』があります。このお話は三匹のやぎがおいしい草場を求めて山に行く途中におおきなトロルがいて、三匹のやぎは食べられそうになるところを知恵で乗り越え、最後に大きいやぎがトロルを倒してしまうという、3回の繰り返しが効果的に使われているお話です。子どもに人気のある絵本ですが、我が家の息子は絵を怖がったので、楽しめるようになってきたのは大きくなってからでした。

 

 

ノルウェーの昔話「三びきのやぎの がらがらどん」マーシャ・ブラウン絵/瀬田貞二訳/福音館書店
日本と世界のむかしばなし「さてさて、きょうのおはなしは・・・」瀬田貞二 再話・訳/野見山響子 画/福音館

 

確かに昔話は怖いものやときによっては残酷なものもあり、あまり幼少期に早く読まない方がいいものもあると思います。
我が家では息子が幼稚園の劇の発表会でいろいろなお話を知り、とても興味をもったので、その時にたくさん読みました。息子のクラスが演じたのは『三匹のこぶた』だったのですが、その絵本だけでも何種類もありどれを選ぶか迷いましたし、また読み比べてみるのも楽しかったです。

 

 

イギリスの昔話「三びきのこぶた」 瀬田貞二 訳 /山田三郎 画/福音館書店
「三びきのこぶた」 ポール ガルトン作/晴海耕平 訳/童話館出版

 

最近では、昔話を知らないで成長する子どもも多く、小学校の授業でイソップ物語の有名な『オオカミ少年』の話を例にとって「うそはいけないよ」という話をしたときに、うまく伝わらなかったという話を聞いたこともあります。
昔話や童話は世の中の道理を教えてくれ、ときには生きる知恵が盛り込まれたものもあります。私たちが小さなころは日本昔話の番組がありよく見ましたが、いまはそれもなく、膝の上で語られることもなく、絵本で読まれることもなくなってしまいつつあります。昔話に込められた人々の知恵を語り継いでいくことの大切さをもう一度考えて、私も昔話絵本にも触れていきたいと思います。

 

 

左上から
「3びきのくま」バスネツォフ 絵/おがさわら とよき 訳/福音館書店
「ながぐつをはいたねこ」ポール・ガルドン 作/てらおか じゅん 訳/ほるぷ出版
「ラン パン パン」インド民話 マギー・ダフ再話/ホセ・アルエゴ アリアンヌ・ドフィ絵/評論社
左下から
「ももたろう」松居 直 文/赤羽 末吉 画/福音館書店
「かにかにではれ」おざわ としお・ふじい いづみ 再話/なつめ しょうご 絵/くもん出版
「おおきなかぶ」A.トルストイ再話/内田莉莎子 訳/佐藤忠良 画/福音館書店

 

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このコラムを書いたママ

永井 知佳子

前職で国語を教えていました。国語の力の基礎は幼少期の読書です。本との最初の出会いである親子の読み聞かせの時間の大切さをたくさんの方に知っていただけたらと思い、読書支援活動をしています。5歳児ママ。
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