立命館小学校

多様性を知って心の器を大きく

2017年からの4年間、立命館小学校・中学校・高等学校の代表校長を務め、立命館の子どもたちの様子を長いスパンで見てこられた堀江未来先生。今年度から小学校専任の校長に就任されました。立命館小学校の基本的な教育方針をはじめ、子どもたちに身につけてもらいたい力などについてお話をうかがいました。

立命館小学校 校長
堀江 未来(ほりえ みき) 先生
ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)という言葉が一般的でなかった時代から研究を続ける堀江先生、ようやく社会がここに目を向け、理解が進みつつあると感じています。小学生と接する時間が増えて毎日楽しくてしかたがないそうです。

授業イラスト

正解のない問いに
立ち向かうための知恵と力

新型コロナウイルスの感染拡大という世の中の危機に直面して、学校など教育現場は対応に追われ、子どもたちとその家族の生活に大きな影響が出ました。一方で、かねてより社会全般にデジタル化が進むなど技術革新は顕著でしたし、また人口の高齢化を受けて福祉の高まり、充実も進んでいました。皆が模索するなかで起きた未知のウイルスの流行が新しい時代へ一気に舵を切るきっかけになったと思います。とはいえ、何が正しいのかわからない、異なる意見が噴出する状況です。そうしたなかで皆と協力しながら知恵を絞り、人の知恵も聞き入れ、よりよい答えを導き出す。コロナ禍で求められるのは、そうした正解のない問いに立ち向かえる人であり、それこそが私たちの育てたい人物像なのです。

小学生は肯定感で
満たされるべき

正解のない問いに立ち向かえる知恵や力といっても、それが小学校で完成するわけではありません。小学生の時期はそうした知恵や力を育むための準備期間であり、そのあとの長い成長期間を経て、個々の能力は花開いていきます。その日のためには、小学生の時期に「自分を否定されない」ことが重要です。子どもの頃というのは未知への好奇心、素直な探究心にあふれています。また、大人から見ると変てこなものに興味をもったり、不思議な疑問を投げかけたりします。それをいっさい否定されずに受けとめてもらえること。まわりの人たちと一緒に考えたり、関心を発展させたりできる環境が望ましいのです。それが自己肯定感を大きくし、自分は学んでいけるという自信につながります。

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図工の「集団学び」の時間。
認め合うことの大切さを学ぶことは、
日々の思いやりにつながります。

多様性の理解と尊重
段階を経て学んで

否定されずに受けとめてもらえる環境とは、自分で自分を否定しない、相手をも否定しないということです。自分を大切にし、相手も大切にする。自分と相手は違うのです。「多様性」という言葉が珍しくなくなりましたが、まずは「わたしとあなたは違う」と知ることが多様性理解の基本です。第一に、見た目ですぐわかる「違い」。髪の色、肌の色、目の色の異なる人たちがいます。次に、ある人の文化的背景を知って見えてくる「違い」。どんな社会で育ってきて、どんな考えかたをもっているのか。普段食べているもの、服装、生活習慣などですね。

こうして考えていくと、「わたしとあなたは違う」ということは、クラスの仲間にもいえることだとわかります。隣の友達も「わたしとは違う」ことを知るのです。そして「違う」とわかった時にどうするか、というのが次の段階です。わかろうと努力することが大事、わかりあえたらいいけれど、わからなくても、その人の存在は尊重する。他者を認めることは容易でないこともあります。これはゴールのない探究ですね。けれども、子どもの頃から、違いを受け容れ、今の自分には知らないことがたくさんあること、すなわち多様性を知ることが心の器を大きくします。器が大きくなれば、さらに多くの知識を身につけ、考えることができるようになります。

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今年度から制服のルールを変更。
ズボン・スカート・帽子は
性別に関係なく、好きな方を選べます。

心理的安全性の高い職場で
先生も成長を

多様性理解と尊重については、むしろ、先入観で凝り固まった大人のほうにより課題が多いかもしれません。ですから、立命館小学校では、子どもたちに教える教員にも多様性について自問を促し、ともに考えていくようにしています。現在のようなコロナ禍であっても平時でも、先生方には万全の状態で子どもと向き合ってもらわなければなりません。校長としては、よりいっそう心理的安全性の高い組織づくりに取り組み、職場の安心安全を保障していかねばと思います。教員一人ひとりが教育のプロとして、一研究者として、子どもに負けず劣らず成長していける環境でありたいですね。

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立命館アジア太平洋大学の
国際学生と学ぶ「ワールドウイーク」。
子どもたちが「常識」とは何なのかを
考えるきっかけに。

「幸せ」とは自分の
意志で決めた人生を歩むこと

日々、子どもたちと、対面であれオンラインであれ接していて思うのは、ひと言でいえば幸せになってほしいということです。将来にわたって幸せであり続けてほしい。「幸せ」とは、自分の意志で決めて人生を歩んでいくことだと思います。人生ではさまざまな分かれ道に出会います。助けたり助けられたり、他者の影響も時にはあります。それでも、自分で考え、判断し、進む方向を決めてゆける。それが幸せな人生だと思います。その決めてゆける力をしっかりつけてほしいのです。小学校は、その根っこの部分を育てる場所であり期間といえます。

最初に申し上げた、正解のない問いに立ち向かう力もそうですが、こうした力は「非認知能力」といわれ、現在その重要性がよくいわれるようになってきました。とはいえ、認知能力(=学力)あっての非認知能力(=自尊心、意欲、忍耐力など測定できない能力全般)であり、その逆であるともいえ、両者のバランスが大事です。学び、知ることで見える世界、想像できる世界が広がり、そのことで心の器が大きくなります。寛容になり、懐が深くなるのです。すると自然に吸収できる知識はさらに増え、教養が高まります。もちろん、長い時間のかかることです。幸せになってほしい。ただそう願って、よりよい学び舎をつくっていきたいと考えています。

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4万冊以上の本を所蔵するメディアセンター。
年間約10万冊の貸し出しのうち、
1万冊は英語の本。

※本内容は子育てフリーマガジン「クルールきょうと版2021年11・12月号」に掲載された内容です。
教員情報および取材内容は掲載当時のものです。